最終更新:2026年10月25日
この記事でわかること
- 「老化細胞」とは何か、細胞の「死」とどう違うのか
- 年齢とともに老化細胞が増える理由と、周囲の細胞に炎症を広げるしくみ
- 老化細胞には体を守る役割もあること
- 老化細胞を減らす研究はどこまで進み、何がまだわかっていないのか
老化細胞とは? ひと言でいうと「分裂をやめたが、死んでいない細胞」
私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。皮膚や血液、腸の内側など、多くの組織では古い細胞が分裂して新しい細胞を生み出し、常に入れ替わることで体の状態を保っています。
ところが、細胞はいつまでも分裂を続けられるわけではありません。強いダメージを受けたり、分裂を繰り返したりすると、細胞はある時点で分裂をやめてしまいます。このとき細胞は死ぬのではなく、生きたままその場に残り続けます。この状態の細胞を「老化細胞」、細胞がこの状態になることを「細胞老化」と呼びます。
近年の研究で、体の老化とは、この老化細胞が体内に少しずつ蓄積していくことだと考えられるようになりました。若い人の体には活発に分裂する細胞が多く、老化細胞はわずかです。年齢を重ねると老化細胞が増え、組織や臓器の働きが少しずつ落ちていきます。つまり、体の老化を細胞の単位で見ると、「老化細胞がどれだけ増えたか」の問題だといえます。
細胞の「老化」と「死」は何が違うのか
「細胞が老化する」と聞くと、細胞が弱って死んでいくことを思い浮かべるかもしれません。しかし、細胞の老化と細胞の死は、まったく別の現象です。
細胞が死ぬほどの強いストレスを受けると、細胞は「アポトーシス」や「ネクローシス」と呼ばれる形で死に、体から取り除かれます。一方、死ぬほどではない弱いストレスが続くと、細胞は死なずに分裂だけを止めます。これが細胞老化です。
細胞の老化には、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 複製老化:細胞が分裂を繰り返すうちに、一定の回数で分裂できなくなる現象です。1961年にアメリカの研究者ヘイフリックが、ヒトの細胞はシャーレの中で50〜60回ほど分裂すると増えなくなることを報告しました。この上限は「ヘイフリック限界」と呼ばれています。
- 誘導老化(ストレス誘導性老化):まだ分裂できる力が残っている細胞が、DNAの損傷や活性酸素、化学物質などのストレスによって早く老化してしまう現象です。体の中では、こちらのタイプも大きな役割を果たしていると考えられています。
ちなみに、がん細胞はこの「分裂の上限」を持たず、栄養があるかぎり増え続けます。細胞老化には、遺伝子が傷ついた細胞の分裂を止め、がんになるのを防ぐ「ブレーキ」の役割もあると考えられています。
老化細胞は、見た目でわかるのか
老化細胞は、顕微鏡で見ると若い細胞と形が大きく違います。若い細胞は小さくスリムな形で、活発に分裂しています。一方、老化した細胞は大きく平たく広がり、分裂をやめています。


研究の現場では、形のほかにもいくつかの目印を組み合わせて老化細胞を見分けています。
- SA-β-gal(老化関連β-ガラクトシダーゼ):老化細胞で強く働く酵素で、特殊な染色で青く染まります。
- p16やp21:細胞の分裂を止めるブレーキ役のタンパク質で、老化細胞で量が増えます。
- 核の変化:老化細胞では、核を包む膜(核膜)の近くの構造が変わることが知られています。
研究チームは、核膜の近くにあるタンパク質「LBR(ラミンBレセプター)」が、細胞の老化にともなって位置を変えることを報告しています(2016年)。このような目印は、ひとつだけでは確実ではなく、いくつかを組み合わせて判断するのが一般的です。
細胞はなぜ老化するのか
細胞を老化させる原因は、体の外から来るものと、体の中で生じるものに分けられます。
- 外からの原因:紫外線や放射線、大気汚染物質、過剰な塩分、有害な化学物質など。研究チームは、高い濃度の食塩が細胞の老化を引き起こすしくみを報告しています(2015年)。
- 中から生じる原因:細胞は食べ物から得たエネルギーを使って活動しています。その過程では、私たちの生活からごみが出るように、活性酸素や、傷んだタンパク質などの老廃物が生じます。
老化の原因としては、テロメア(染色体の末端にあり、分裂のたびに短くなる部分)や活性酸素がよく知られています。研究チームは長年の実験から、これらは老化に関わってはいるものの、それだけでは説明しきれないと考えてきました。そして、細胞の中に傷んだタンパク質などの老廃物がたまり、タンパク質のバランスが崩れることが、細胞を老化させる大きな要因ではないかと考えています(2025年には、この考え方を支える研究成果を、査読前の論文として公開しています)。
この「老廃物の蓄積」については、研究コラム「老化の根本原因は『ゴミの蓄積』だった?」で詳しく紹介しています。
年をとると、なぜ老化細胞が増えるのか
老化細胞は、若いころから体の中で少しずつ生まれています。若いうちに老化細胞があまり増えないのは、主に2つの理由があると考えられています。
1つ目は、生まれる量が少ないことです。若い細胞は傷を修復する力が強く、老廃物を片づける働きも活発なため、老化細胞になりにくいのです。
2つ目は、片づける力が強いことです。老化細胞は、免疫細胞によって見つけ出され、取り除かれています。若いうちは免疫の働きが強いため、老化細胞がたまりにくいのです。
年齢を重ねると、細胞の修復力や老廃物を片づける力が落ち、老化細胞が生まれやすくなります。同時に免疫の働きも弱まり、老化細胞を片づけきれなくなります。こうして「生まれる量が増え、片づける量が減る」ことで、老化細胞が少しずつ体内に蓄積していくと考えられています。
なお、老化の進み方には、遺伝よりも生活習慣や環境の影響が大きいとされています。一卵性双生児を比べた研究などから、遺伝の影響は2割ほどで、残りの8割ほどは生活習慣や環境によると考えられています。老化細胞がどれだけ増えるかも、日々の暮らし方によって変わる余地が大きいということです。
老化細胞が体を老いさせるしくみ ― 周りに炎症を広げる「SASP」
老化細胞が増えると、なぜ体が老いるのでしょうか。理由の一つは単純で、分裂しない細胞が増えると、組織の細胞を新しく入れ替えられなくなり、組織の働きが落ちていくからです。
しかし、もっと重要だと考えられているのが、老化細胞が周りに及ぼす影響です。老化細胞は、ただ静かにそこにいるわけではありません。炎症を起こす物質(炎症性サイトカインやケモカイン)や、コラーゲンなどを分解する酵素を、細胞の外へ放出します。この性質は「SASP(サスプ:細胞老化関連分泌現象)」と呼ばれています。
SASPによって放出された物質は、周りの正常な細胞にストレスを与え、その細胞まで老化させたり、がん化しやすくしたりします。老化細胞が周囲の細胞を老化させ、その細胞がまた炎症物質を出す……という悪循環が起こり、体のあちこちで弱い炎症がくすぶり続けるのです。こうした加齢にともなう慢性的な炎症は「インフラメイジング(inflammaging)」とも呼ばれ、動脈硬化、糖尿病、腎臓病、筋力の低下、認知機能の低下など、年齢とともに増える病気に関わっていると考えられています。
研究チームは、先に紹介した核膜の近くのタンパク質LBRが、このSASPの発現に重要な役割を持っていることを報告しています(2020年)。老化細胞が「なぜ炎症物質を出すようになるのか」というしくみの解明は、老化研究の大きなテーマの一つです。
老化細胞は、ただの悪者なのか
ここまで読むと、老化細胞は体にとって悪いものばかりに思えるかもしれません。しかし、老化細胞には体を守る役割もあります。
- がんを防ぐ:遺伝子が傷ついた細胞が分裂を続けると、がんになるおそれがあります。細胞老化は、そうした細胞の分裂を止める安全装置として働いています。
- 傷を治す:組織が傷ついたとき、老化細胞が一時的に現れて、傷の修復を助けることが知られています。
問題になるのは、老化細胞が役目を終えても片づけられず、長く居座り続けることです。そのため、老化細胞を「すべてなくせばよい」わけではありません。実際に、動物実験で老化細胞を過剰に取り除くと、かえって体に悪い影響が出たという報告もあります。必要なときに現れ、役目を終えたら片づけられる――このバランスを保つことが大切だと考えられています。
老化細胞を減らす研究は、どこまで進んでいるのか
老化細胞が老化の大きな要因だとわかってきたことで、世界中で「老化細胞を減らす」研究が進んでいます。
① 老化細胞を取り除く「セノリティクス」
老化細胞だけを選んで取り除く薬剤は「セノリティクス」と呼ばれています。2016年には、アメリカのメイヨー・クリニックの研究グループが、遺伝子操作によって体内のp16陽性の老化細胞を取り除いたマウスで、健康に過ごせる期間が延び、寿命の中央値も延びたことを報告しました。ヒトでも、抗がん剤のダサチニブと、植物成分のケルセチンを組み合わせた臨床試験が行われています。閉経後の女性を対象にした試験(2024年報告)では、試験全体では骨密度に大きな差は出なかったものの、老化細胞が多い人では一部に良い変化が見られたと報告されています。2026年10月には、肝臓に脂肪がたまって炎症と線維化が進む病気(MASH)の人31人を対象にした、偽薬と比べる臨床試験(ランダム化比較試験)の結果が報告されました。ダサチニブとケルセチンを21週間、間をあけて飲んだグループでは、肝臓の線維化が改善した人の割合が47%で、偽薬のグループ(7%)を上回りました。一方で、副作用はダサチニブとケルセチンのグループのほうが多く、より大規模で長期の試験で確かめる必要があります。研究者自身も、市販のケルセチンなどを自己判断でとることには注意を呼びかけており、ヒトでの効果と安全性はまだ確かめている段階です。
② 老化細胞を「生まれにくくする」研究
取り除くのではなく、そもそも細胞が老化しにくい状態を保つ研究もあります。研究チームは、細胞の中で作られるタンパク質の量をわずかに抑えると、細胞が老化しにくくなり、すでに老化した細胞がふたたび分裂を始めることを、培養細胞で示しました(2016年)。この「若返り」の研究については、研究コラム「若返りは可能か?」で詳しく紹介します。
③ 生活習慣と老化細胞
運動や食事が、細胞の老化の目印にどう影響するかを調べる研究も増えています。高齢者34人が12週間、筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせた運動プログラムを続けたところ、体の機能が良くなり、血液中の免疫細胞(T細胞)で老化の目印(p16やp21など)の量が減っていたという報告があります(2021年)。ただし、この研究は人数が少なく、運動をしなかった人との比較もないため、結果の解釈には慎重さが必要です。
老化細胞の研究を読むときに気をつけたいこと
老化細胞の研究は進歩が速く、ニュースやSNSでもよく話題になります。情報を見るときは、次の点を確認するのがおすすめです。
- 細胞や動物の研究か、ヒトの研究か:シャーレの細胞やマウスで起きたことが、そのままヒトで起きるとは限りません。
- 目印が変わっただけか、健康状態が変わったのか:血液中の老化の目印が減っても、それで病気が減ったり、寿命が延びたりしたことが証明されたわけではありません。
- 人数と期間は十分か:数十人・数週間の研究と、数千人・数年の研究とでは、結果の重みが大きく違います。
よくある質問
Q. 老化細胞は、体のどこにできるのですか?
A. 皮膚、血管、脂肪組織、肝臓、腎臓、肺、脳など、体のさまざまな場所で見つかっています。とくに、紫外線を浴びる皮膚や、加齢とともに働きが落ちやすい臓器では、年齢とともに老化細胞が増えることが報告されています。
Q. 老化細胞が増えていることは、検査でわかりますか?
A. 現時点では、健康診断のように一般の人が老化細胞の量を測る方法は確立していません。研究の場では、組織や血液の細胞を調べて、p16などの目印の量を測る方法が使われています。血液から老化の度合いを推定する検査も研究が進んでいますが、まだ発展途上の段階です。
Q. 一度できた老化細胞は、ずっと残り続けるのですか?
A. 若いうちは、免疫の働きによって多くの老化細胞が片づけられています。また、研究チームは培養細胞の実験で、老化した細胞がふたたび分裂を始めることを示しました。老化細胞は「必ず残り続けるもの」ではなく、体の状態によって増えたり減ったりしうるものだと考えられています。
まとめ
- 老化細胞とは、分裂をやめても死なずに体内に残り続ける細胞のこと。体の老化は、細胞の単位で見ると老化細胞の蓄積として理解されるようになった。
- 年齢とともに、老化細胞は「生まれやすく、片づけられにくく」なり、少しずつ増えていく。
- 老化細胞はSASPと呼ばれる炎症物質を出し、周りの細胞まで老化させる悪循環を起こす。一方で、がんを防いだり、傷を治したりする役割もある。
- 老化細胞を取り除く薬や、老化しにくくする研究が進んでいるが、ヒトでの効果と安全性はまだ確かめている段階にある。
老化細胞の研究は、「なぜ老いるのか」という問いに、細胞という具体的な単位で答えようとするものです。研究チームは約40年にわたり、細胞の老化と若返りの研究を続けてきました。これからも、その成果をわかりやすくお伝えしていきます。
関連ページ
- 老化研究
- 若返り研究
- 研究業績
- 研究コラム「老化の根本原因は『ゴミの蓄積』だった?」
- 研究コラム「若返りは可能か?」
引用・参考文献
- Hayflick L, Moorhead PS. The serial cultivation of human diploid cell strains. Experimental Cell Research. 1961.
- López-Otín C, et al. Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell. 2023.
- Baker DJ, et al. Naturally occurring p16Ink4a-positive cells shorten healthy lifespan. Nature. 2016.
- Farr JN, et al. Effects of intermittent senolytic therapy on bone metabolism in postmenopausal women: a phase 2 randomized controlled trial. Nature Medicine. 2024.
- Koning M, et al. Senolytics dasatinib and quercetin in metabolic dysfunction-associated steatohepatitis: a proof-of-principle randomized, controlled trial. Nature Metabolism. 2026.
- Englund DA, et al. Exercise reduces circulating biomarkers of cellular senescence in humans. Aging Cell. 2021.
- High concentrations of NaCl induce cell swelling leading to senescence in human cells. Molecular and Cellular Biochemistry. 2015(オンライン公開).
- 研究チームの論文:細胞老化にともなうLBRの局在変化(Biochemical and Biophysical Research Communications, 2016)
- Takauji Y, et al. Restriction of protein synthesis abolishes senescence features at cellular and organismal levels. Scientific Reports. 2016.
- 研究チームの論文:LBRとSASP(Experimental Cell Research, 2020)
- Takauji Y, et al. Disturbed proteostasis is the key event that triggers cellular senescence through the regulation of chromatin organization and genome stability. bioRxiv. 2025.
※本記事は老化研究に関する一般的な科学情報を紹介するものであり、特定の疾病の診断・治療・予防や、特定の製品の効果を示すものではありません。細胞・動物レベルの研究を含みます。


